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Luncheon Seminar

第36回 記憶

平成30年8月9日桔梗ヶ原病院リハビリテーション研究会Luncheon seminarを開催しました。講師は、当院リハビリテーション科の武田克彦先生(第40回 日本高次脳機能障害学会学術総会会長)。「記憶」と題し、講演をして頂きましたので、ご講演内容を報告いたします。

~症例HM~

HMは10歳頃よりてんかんを発症し、薬でのコントロールは困難であった。1953年(27歳)にて両側側頭葉内側を8㎝(実際には5㎝)切除。術後のてんかん発作は減少したが、重度の記憶障害が残った。HMの脳をMRIにて検討したところ、海馬の尾側1/2は萎縮しており、嗅内野はすべて切除され、周嗅野の一部と海馬傍回は残っていた。

~HMの記憶について~

短期記憶〇 vs 長期記憶×
前向性健忘× vs 逆向性健忘×
意味記憶〇 vs エピソード記憶×
言語性記憶× vs 視覚性記憶×
explicit memory(顕在記憶)× vs implicit memory(潜在記憶)〇

電話番号をすぐに聞いて答えさせるといった短期記憶は保たれており、リハーサルをしていく限り保たれていた。しかし、リハーサルを禁じて暫く経ってから確認すると答えられなかった。
また、術後に起きたことを覚えられず(前向性健忘)、手術を受ける前のことも思い出せなかった(逆向性健忘)。しかし、小さい頃までの記憶は障害されなかった。
エピソード記憶は、「本を読んだこと」「昨日あったこと」等の出来事についての記憶であり、重篤に侵されていた。意味記憶は、「東京は日本のどこにあるか」「アメリカの首都はどこか」等の知識に関しての記憶であり保たれていた。
技能の習得は可能で、条件反射が保たれていた。

~長期記憶とは~

長期記憶を大きく分けると、意味記憶、エピソード記憶、手続き記憶、オペラント条件付け、古典的条件付け、条件反射に分類できる。
特定の日時や場所を関連した個人的な体験はエピソード記憶となり、特定の日時や場所とは無関係な情報の記憶(たとえば単語や記号の意味)は意味記憶となる。

~HMの意味記憶は保たれていたか?~

新しい語彙情報、HMが手術前に自分の語彙になかった単語は学べない。1954年以降に英英辞典に載った単語は覚えていない。それも検索の異常によらない。他の例であるが、科学者が記憶障害になった例が報告されている。よく覚えている専門的領域の概念は大学院の頃に学んだもの限られていた。しかし、まったく学べないのではなく再認検査では少し成績が上がり、有名人の名前は少し覚えられた。これは、刺激に対する曝露のされ方の違いによるのであろう。

~手続き記憶~

HMは新しい技能は習得できた。手もとを見ずに鏡に映した図形を書く鏡映描写では、普通の人は始めは絵がいびつだが次第に上手になっていく。HMも同様に上手になるが、書いたこと自体や昨日やったことを忘れてしまう。
運動技能の記憶に関与する部位は小脳をめぐる神経回路が考えられている。また、運動技能などの練習の積み重ねで獲得される習慣の記憶に関与するのは大脳基底核ではないかとも言われている。

~プライミング記憶~

プライミング記憶とは、前刺激によりその後の反応に変化がある記憶をいう。この現象は、前もってその単語が提示していたことを意識する必要がない。記憶障害があってもこの現象が見られ、1年後にも保持されている事がある。

~側頭葉内側の構造と記憶~

HMの検討から両側側頭葉内側の損傷が記憶障害を生じることが明らかになった。この側頭葉内側には海馬などいくつかの解剖学的構造がある。それらの分かれた領域がどのように記憶に関与しているのかまだ問題として残っている。

~再生記憶と再認記憶~

意識的想起が要求される再生法(選択肢がない中から想起する)を再生記憶という。また、親近性(熟知性、既知性)のみを診断させ、いつ、どこで経験したかは問わない再認法(選択肢がある中から想起する)を再認記憶という。

~内側側頭葉記憶システム~

Sub-Region Processing

System Processing

○Sub-region processing hypothesis
内側側頭葉はさらに細かく分かれており、たとえば嗅内野は○○の処理をしている。一方海馬傍回は××の処理をしている。両者を海馬が接合させている
○The system processing hypothesis(内側側頭葉記憶システム)
これらのsub-regionは一緒に働くのである

~視床でなぜ記憶障害がおきるか~

視床は海馬から離れているが、記憶障害が起こる。これは海馬から視床に至る様な経路を通る、パペッツの回路が記憶に関して重要な役割を果たしている為である。病巣が視床でも海馬に似たような症状となる。

~コルサコフ症と症例HM~

忘却の速度は、症例HMの方がコルサコフより速い。コルサコフ症の患者は逆向性健忘が短期間ではなく、数十年に及ぶことがある。両者ともに技能の習得に問題はないが、コルサコフ症では作話を認める。

~症例NA~

22歳のときに、フェンシングの剣が頭に突き刺さり、右の鼻腔から左上方に向かって刺さった。傾眠傾向・左動眼神経麻痺・上眼上転障害・構音障害・右片麻痺・右半身感覚鈍麻がみられた。術後から重度の記憶障害がみられ、WAIS 99(3年後120)・WMS 64(3年後96)であった。言語性記憶障害がみられたが、顔の記憶は良く、記憶障害に対する病識も保たれていた。画像では、左視床背内側病変が指摘されていた。MRIでは、左視床内側髄板、内側核腹側部、前腹側核、視床枕、乳頭体核、中脳上丘、右側頭葉前部、扁桃体にも及んでいた。

以上、武田克彦先生に「記憶」をテーマにご講演頂きました。次回は、平成30年9月20日にご講演して頂く予定となっております。

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